今日はちょっとしたTIP集です.ものを作ったら、発表をすることがありますね?筆者は高校生の時から電子回路を使った作品を展示会場に持ち運んで、展示する、来場者に体験してもらうといった経験がありました。その中で得られた知見を共有したいと思います。つまるところ自分の失敗談です.
この文章は電子工作を趣味でやっている人が書くものです.間違いなどある可能性がありますが,ご了承ください.できるだけ役に立つように頑張ります.
会場に持っていったら回路が動いてくれなくなった。
ここに一例をあげます.
- 電源が入らなくなった.
- 回路が正常に動かなくなった.
- PCと通信ができなくなった.
- プログラムが書き込めなくなった.
- 電源を入れたら煙が立ち上った.
- 電源を入れたらフラックスの匂いがした.
はい、あるあるです。ご愁傷様です.これらのトラブルは全て自分が経験したものです.最悪の場合,会場で泣きじゃくりながらハンダ付けをすることになります.これらのトラブルは色々な要因でなり得ます.そして素晴らしいゲーム・アート・メディア作品を作っている皆様にも起こり得るものです.当日動かないものほど悲しい事はありません.MITが「Demo or Die」と言うようにデモが動かなければ確実な死が待っています.
「メディアアート」という名前のロボ。ぶつかると相手に「調整中」という札を貼る… pic.twitter.com/ips2PpfIg4
— 稲見昌彦🌤️INAMI Masahiko (@drinami) September 18, 2017
しかしながら,こう言った事態は少し手を加えてやることで防ぐことができる可能性が高まります.この記事で少しでもトラブルが減ることを祈るばかりです.とりあえずあるあるのやらかしで打線を組んで見ました.
- 一 予備の部品を持ってきてない
- 遊 ケーブルを直ハンダしてる
- 二 配線面を絶縁してない
- 中 ブレッドボードのまま会場に持ってくる
- 右 電子回路・配線が見えてる
- 三 配線・ケーブルを固定せず使ってる
- 左 工具フルセット持ってきてない
- 捕 延長ケーブル,タップを持ってきてない
- 投 作品のガイダンスを作ってない
一:予備の部品を持ってきてない
同じものがもう一つ作れるくらい予備を用意する
部品は壊れる,データは消える.これはこの世の理です.同じものが丸々もう一つ作れるように予備の部品を持ってくることを強く推奨します.また,ロボコンのように大電流を流すFETやダイオードなど,壊れることが想定される部品は3〜5倍くらい持ってきておくと安心です.電子部品なんて秋葉原とか日本橋くらいにしかないので外で入手できる望みは薄いです.
最近は3Dプリンタを私もよく使います.ヘナチョコ設計だと意外と輸送で壊れたり,来場者に予期しない使い方をされ破壊されます.自分の設計に自信がない場合は電子部品に限らず作品を構成するもの全ての予備パーツを持っておきましょう.展示が複数日に渡る場合は,さらにマージンをとってください.
遊:ケーブルを直ハンダしてる
コネクタを使おう
これが意外に多い.ケーブルを基板に直ハンダすると引っ張った時に断線,ランド剥離などの可能性があります.来場者は容赦無く引っ張ります.幾度となく破壊されました.コネクタを使いましょう.コネクタ化すると輸送中もケーブルを外してまとめられるので絡まらないし,見た目も格段に良くなります.断線してもコネクタケーブルあらかじめ作れば半田付けも必要ないです.漂う玄人感.(ただし,大電流が流れる場所や信頼性が求められる場所ではあえてコネクタを使わずに直付けする場合もあります)
また,長いケーブルはできるだけ無線化してやるということも見栄えの良さ,運用のしやすさにつながります.特に来場者が触るようなものはケーブルがあると邪魔なので無線化すると良いです.
どのコネクタ使えばいいの?
普通の電子工作レベルであればJST XHコネクタやJST PHコネクタ,QI(2550)信号伝達コネクタを使うと良いです.詳しくは別の記事でまとめてるので覗いてみてください.
コネクタって作るの難しいんじゃないの?
難しくないといえば嘘になりますが,そんなこともないです.確かにコネクタを作る工具が必要になりますが,作品に組み込むくらい電子工作をやるのであればカシメ工具を持っていても良いでしょう. 当たり前ですが,ケーブルの数だけコネクタ化をする必要があるのでだんだん面倒に感じてくるかも.そんな人のためにコネクタ付きケーブルを買うのも手です.秋月,千石,Aitendoとかで安価にコネクタケーブルが売ってることもあるので大量に必要な場合は作るよりもいいかも.
20P,30Pのようにたくさんケーブルを出すときはリボン・すだれケーブルを使うと綺麗にまとまります.万力でガッチャンこできるコネクタもあるので便利.
無線化難しそう
無線化と言っても電源をバッテリー化してやったり,必要な通信をBluetoothやWiFiで行ったりとやり方は色々あります.今時はワンコインで買えてArduino環境で開発できるWiFIモジュールもあります.ぜひチャレンジしてください.詳しくはまた書きたいと思います.
二:配線面を絶縁してない
裏面は保護しよう
あなたが服を着るように基板も服を着せてあげてください.配線面はいかなる時も何も触れないようにしてください.ふとした瞬間に電気抵抗が低いものが接触するとその瞬間燃えます.私は事務スチール机の端が基板に触れた状態で導通させ,燃やしました.スズメッキ線を使う場合は特に燃える可能性が高いです. ユニバーサルB基板,C基板であればそのままスタックできるアクリルカバーも売っています.また,片面基板のランドがない面を重ね保護しても良いですね.何か引っかかって回路を破壊するなんてこともあるので保護しておいて損はないです.私はマフラーの繊維とハンダ部が引っかかって配線を破壊しました.**
どうしても急いでるときは養生テープでも貼っておいてください.**(この手に限る)Amazonなどでも売っているスタンドオフを持っておくとアクリルや基板を重ねるのに何かと便利です.
ケーブルとケーブルをつなげた場合は熱収縮チューブ(シュリンクチューブ)で絶縁するのは良い方法です.なんといっても見た目がスマート,プロっぽい.ハンダこてとかライターとかヒートガンで熱を与えれば勝手に縮んでくれる優れものです.持っといても損ないですよ.Amazonでもよく使うセットが売ってる.
中:ブレッドボードのまま会場に持ってくるのやめろ
基板に実装しよう
会場にブレッドボードのままの電子回路を持ってきている人がいます.ブレッドボードは後述する構造上の問題から信頼性は低いです.あくまで試作をするためのもので,作品に組み込むための本番用の基板ではないことに留意ください.
試作では使えるじゃん!そのまま使えるでしょ?って思いますよね?それではブレッドボードを使った実装が不安定な要因をあげます.
ブレッドボードの構造
ブレッドボードはバネのようになった部分にジャンパ線を差し込むことで通電します.このため,ちょっとジャンパ線にちょっと触っただけで動かなくなることも少なくありません.さらに長時間差し込まれたバネは保持力が弱くなり,接触が甘くなることもあります.また,ジャンパの復原力(真っ直ぐに戻ろうとする力)でバネに触れたり触れなかったりということもよくあります.そもそもバネがジャンパ線を2点ではさみこんでるだけなので接触抵抗は大きくなる傾向があります.ないとは思いますが,大電流,高周波などを扱う場合に影響が出てきます.だいたい10MHz以上だと影響が出てくるかなというイメージ.
このかたは実際にブレッドボードを分解しています. aka-guma.com
ジャンパワイヤー
ブレッドボードに配線するジャンパ線も安価なものだと断線,断線しかかってるしているものがたまにあります.秋月のこのジャンパは断線していることが多い気がします.(使う本数が多いからはずれに当たりやすいだけかもしれない…) akizukidenshi.com
輸送したら断線してたなんてことも1回だけありました.(多分最初から断線しかかってて輸送の振動でトドメを喰らった)実際に秋月のHPには「使用前にテスターでチェックをお願いします」と書いてあります.安いからね.しょうがないね.いっぱい入ってるし.
【通電チェックのお願い】こちらは通電不良が多い為、大変お手数ですがご使用前にテスターの導通ブザーで1本ずつチェックをお願いします。
自分はこのジャンパに苦しめられた経験が多いのでこれを使ってます. akizukidenshi.comこいつに移行してからはジャンパが原因の問題は起こっていません.あとピンの部分が細くて密集部も配線が簡単.10本で350円なので1本35円.安い方は60本で220円なので1本3.6円.どっちを使うかはお任せします.
電源の引回りなどはできる限りこのような硬いジャンパワイヤーを使うようにすると配線抜けの防止や見た目がスッキリします.
どうしてもブレッドボードがいい
このようにブレッドボードでの実装は極めて不確実な要素が非常に多い実装方法と言えます....とここまで結構ボロクソ言いましたが,試作レベルでは十分使えるものですし,どっかに持っていったり輸送で振動させたりしなければ大丈夫です.輸送すると大体壊れると思っておきましょう.どうしても輸送したい時は手頃な段ボールにテープで固定してワイヤーが周りに触れないようにしましょう.このようにすることで接触不良などを抑えられる.(気がします.)また,展示先で配線し直せる時間があるなら問題ないでしょう.(見栄えはともかく)
基板はいいぞ
基板はなんといってもかっこいい.今までもじゃもじゃしてた配線が一枚に基板にまとまるのは気持ち良いものです.あとは信頼性が向上します.前述のように不安定なブレッドボードから基板にすることで当日に動く可能性を上げることが可能です.基板に起こしてるか否かでその人の電子工作スキルが図れます.会場歩いてると「お,この人やるな」って思うことも多々あります.
基板作るのって大変そう.ハンダづけとか知らんのだけど
基板作るにはいくつかの方法があります.
- ユニバーサル基板で作っていく方法
- 基板CADなどで配線を起こして業者に発注
- 基板CADなどで配線を起こして自前で加工
ユニバーサル基板で作っていく方法
小規模な回路だと1が多いです.スズメッキ線,UEW,テフロン線を使ってパーツ同士を接続し,回路を作ります.普通は全部つながってないユニバーサル基板に実装していきますが,ブレッドボードのように縦につながっているものも存在しているのでブレッドボードの配線がそのまま使えます.配線の引き回しに自信がない人も安心です.
あと,ArduinoUnoとつなげたい場合は,Arduinoのシールドユニバーサル基板も売ってます.亀の甲羅のように上に重ねて使えるので便利です. fumimaker.hatenablog.com
基板CADなどで配線を起こして業者に発注
最近は2の方法も多いです.回路規模が大きくなってきたと思ったら基板CADで回路図をつくり,アートワーク(実際の配線)を行い,データを業者に送ることでクオリティの高い基板を作ってもらうという方法です.近年は急激に値段が下がり,安ければ2000円/10枚程度から発注できるのでお勧めです.基板CADもEagleは150mmまで無料で使えるし,KIcadはそもそも無料なのですぐに始められます.過去にこれを紹介したので良ければ見てください.
基板CADなどで配線を起こして自前で加工
この記事を見るような人は3なんてやらないと思いますが,一応紹介だけしておきます.知識として知っておいてもいいかもしれないです.2同様にデータを作り,基板加工機や,アイロンを使ったトナー転写もしくは感光基板にマスクをあて,エッチングをする方法です.最近は2が安くなったおかげでこの方法はあまり用いられなくなりましたが,昔はこれが主流でした.
というか基板の作り方だけでクッソ長くなるので,実際に何か作りながら今度書きたいと思います.
右:電子回路・配線が見えてる
何かしらで囲ってあげよう
自分のように機械オタクは電子回路を見ると心が躍りますが,一般に電子回路・配線が見えてると非常に見栄えが悪いです.アート・メディア・ゲーム作品において,それらを強調するものでない限り,本来電子回路や配線は不必要なはずです.これらは見えてはいけません.ごちゃごちゃとした印象を与えるだけでなく,来場者に不必要な情報を与え,コンテンツの体験・クオリティが下がります.実際に審査員にボロクソに言われたときは声も出なかったです.
あと,やっぱり何か当たったりすると回路が壊れるので物理的に囲ってやるってのは重要です.隠してやると普通にかっこいいので是非やってください.展示会とかで電子回路が見えたりすると勿体ないな〜と思うものをいくつも見かけます.
ケースって高いやん
タカチとかのガチケースは高いです.だってあれプロ用だもん.趣味の人が使う品質じゃないもん.え?そんなことない?でもちょっと高いよね.ケースに4000円とか3000円とか手がなかなか出ない.
3DプリンタとCAD使うと簡単にケースを作れます.単純な基板収めるケースならものの5分程度で設計して,30分で印刷できます.3DCADもAutodesk Fusionなど高機能ながら無料で使える様々なものがあります.この機会にちょこっと勉強してみるのも良いと思います.基本的なところであれば割と簡単なのですぐにマスターできます.
三:配線・ケーブルを固定せず使ってる
ホットボンド・ラッピングワイヤーで固定しよう
ケーブルは切れる.コネクタはもげる.これを少しでも防ぐために固定をしましょう.ホットボンド(ホットメルト,グルーガン)で固定するのはお手軽かつ強力な手段です.コネクタの根元を固めるもよし,可動部を固めるもよし.おまけに絶縁までやってのける!ただし,外したい時に取れなくなるので困り物.あと見た目が悪い.でも大抵ホットボンドで固めとけばなんとかなる.
綺麗にまとめたいときはラッピングワイヤーなどで縛ってやることで固定できます.
左:工具フルセット持ってきてない
全部持ってこよう
現場では何が起こるかわかりません.悪魔が潜んでいます.悪魔は容赦無く回路を破壊し,台無しにしてきます.それらと徹底抗戦するために回路を丸々ひとつ作るのに必要な工具を全て持ってきた方が良いでしょう.「まあ,使わないかな.」と思ったあれがない!なんてこと何度もありました.意外と使うんです.
捕:延長ケーブル,タップを持ってきてない
3〜5mの延長と6口タップは重要
なんだかんだ言って重要なのは電源の確保です.会場では大体運営が用意してくれていますが,たまに電源がたりない!みたいなことが起こります.いつでも半田付けするためにも電源タップは常備しましょう.また,電源が使えない状況ではガスで加熱できるハンダゴテやUSB給電で加熱できるものも存在します.屋外での展示などに良いかもしれないですね.(使ったことないけど)
投:作品のガイダンスを作ってない
もはや電子工作の範疇じゃないけどこれは重要.来場者に破壊されないための予防策.使い方,体験の流れをスチロールボードなどにまとめておくことで説明を省けたり,スムーズにコンテンツを体験してもらえます.ある程度,来場人数が多いことが予想される場合はアテンダンスを行う要員を確保するのも重要です.どこに並ぶだとか,整理券はどうするとか….説明はどうするとか...もうほとんどアトラクション.そう考えるとディズニーランドとかってすごいとなぁと思う.世界観壊さずにしっかり説明してくる.真似したいものだ.
まとめ
ざっとあげてみましたがこんなものでしょうか.今回言いたいことは,ブレッドボードのまま会場に持ってくるのやめろです.嫌いだからとかではなく,本当に壊れやすいので避けた方が良いという話です.代わりに基板を作りましょう.絶縁をしてケースに入れましょう.ケーブルはコネクタを使いましょう.他にもまだありますかね?あったら教えてください.
展示会場には悪魔が潜んでいます.謎の力によって破壊されることが多いです.「昨日まではあんなに元気に動いてたのに.」ということを防ぐために少しでも不確定要素を取り除き,確実に回路を動かすための要素を増やしていきましょう.
今日も一日ご安全に!